はじめに

人類の特徴

人類の特徴ということば学術的なイメージで分かりにくい用語かも知れません。生命誕生以来の進化の集大成が遺伝子に書き込まれて、その表れの一つが人類の特徴です。たとえば、直立二足歩行です(瀬川昌也「小児の歩行機能異常」Brain and Nerve 第62巻第11号 2010年11月 1219~1220p) 。直立二足歩行は人類の特徴の王様と呼んで差支えないくらいで、人類の祖先が直立二足歩行という特徴を獲得したのちに、さらなる特徴、たとえば高度な脳神経系を獲得したのです。

人類の特徴は、私達の祖先が開発し、伝えてくれた生存戦略です。人類の特徴を知ることは、人類の生存戦略を知ることですから、人生のさまざまな課題に直面したときに、役に立つに違いありません。

知らなかった!人類の生存戦略

例示A 父親の育児参加は人類の戦略

生まれたばかりの赤ちゃんを母親が他の大人に渡し、抱っこされた姿を見て微笑むという光景はありふれたものです。誰も特別なこととは思いません。が、実は生まれたばかりの赤ちゃんを他人に渡しても平気なのは人間のお母さんだけなのです(山極寿一「人類進化論」裳華房 2010年3月 72p)。これは人類が進化の過程で獲得した生存戦略と呼べる人類の特徴の一つです。

生まれたばかりの赤ちゃんを他の大人に渡すということは、人類の子育ては母親ひとりで行うものではなく、男親、祖父母、近隣の大人も育児参加して行うことが人類の戦略であることを示しています。そもそも父親の育児参加は肉食獣から子どもを守るために獲得した特徴とされていますが、医学的には子どもの脳神経系の発達に重要な役割を持つことが発見されています。母親だけでなく父親や多くの大人が参加することは豊かな環境刺激を赤ちゃんにもたらし、脳神経系の健やかな発達につながります(瀬川昌也「睡眠と脳の発達」保健の科学、第51巻第1号 2009年 9~10P)。肉食獣の危険はない現代においては、父親の育児参加は子どもの脳神経系を育てる人類の戦略の一環といってよいと思われます。

例示B 毎日家に帰るのは人類の祖先が開発した戦略

通勤・通学の混雑の中に入るたびに、「なぜ、人は皆、毎朝家を出て、夕方・夜に家に帰るのだろう? 家に帰らないでそのまま職場や学校にいる方が時間の節約になるのに、人類の祖先は何故そのまま職場にいるという特徴を獲得しなかったのか!」と疑問がありました。答えは、人類の祖先が家を安全、食事、睡眠、繁殖の唯一の場であるとした、だからそれを引き継いだ私達は、毎日必ず家に帰るということのようです(山極 寿一「社会の進化と睡眠」花王芸術・科学財団 文理融合シンポジウム 平成15年1月25日)。

毎日家に集まり家族揃って向き合いながら共食・共寝・共起床、談笑する生活、は人類の特徴なのです。

家族も人類の戦略

共食・共寝・共起床、談笑する生活は、私達にとってはありふれたことであって、特別なこととは思えませんが、このことは日々の再生(メンテナンス)装置といってよいと考えています。

たとえば、すべての地球上の生きものは活動と休息のリズムを太陽の明暗リズムに合わせることが生存戦略(井上昌次郎「睡眠科学の基礎」日本睡眠学会ホームページhttp://jssr.jp/kiso/kagaku/kagaku.htm )としていますが、私達人類が生来持っているリズムは25時間なのです。太陽のリズムに合わせるには、24時間リズムしなければなりません。人類は壁と屋根付きの住まいを獲得し良質の睡眠を得ることが出来るようになりましたが、24時間リズムのトリガーとなるべき目覚めの朝の光がベッドまで届く条件がなかなか得られません。家族が代わりに「朝が来た、起きなさい」と目覚めさせ、朝ごはんで「体に朝が来たことを教える」ことは、睡眠というメンテナンスの仕上げであり、太陽の明暗リズムへの同調するためのリズムメークを行っていることになります。普段に続けている生活は、それなりの奥深い理由があるということがよく分かります。

このように家族は、家に集まり家族がお互いにエネルギー補給、会話、睡眠、起床というメンテナンスを行う装置(仕組み)ともいえるのです。この意味で、家族間の相互作用を豊かにし良質のメンテナンスを行うことにより、特段のお金や時間をかけずに子どもは健全な脳神経系と身体を得、大人は毎朝元気はつらつ、 “イキイキする“を獲得することにつながると考えられています。

人類の戦略-集団生活のなかで家族を独立させた-

生きものは、ひとりで生きていくのか、仲間と生きていくのか選択しています。私達人類は6500万年前に熱帯雨林樹上に出現し(山極寿一「人類進化論」裳華房 2008年 36~37p)、樹上で集団生活を発達させ、地上に降りてから、(言語発明以前)小規模集団と家族生活→(言語発明以降)家族生活と集団の規模の拡大、現在は集団の規模が飛躍的に大きくなっています

人類の祖先が地上に進出したのはアフリカに大地溝帯が形成され熱帯雨林が消失され始めた、1400万年~1000万年前とされています(前出資料、146p)。人類はおおよそ1000万年前に、肉食獣が徘徊して捕食リスクの高い地上で集団生活することを選択したのです。
地上生活が始まり、人類の祖先は直立二足歩行、脳容量の増大・脳機能の高度化という特徴を獲得し、一人ひとりと集団の間に家族をつくることを発明したのです。ただし家族がいつ始まったかについては学術的な定説は見つかっていないようです(山極寿一「ヒトはどのようにしてつくられたか」岩波書店、2007年1月23日、172p)が、集団と一人ひとりの間に家族生活を位置づけ、家族をいわば独立させたのです。集団の協力を得ながら家族間の相互作用を豊かにすることで、さらなる人類の特徴を獲得する戦略をとったに違いありません。

約5万年前に人類が言語を発明するまでのコミュニケーションは「身振り、表情、発声によって音楽的なコミュニケーションを行っており、それは他者と感情を共有するために発達した」(前出資料、169p)であり、その身振り、表情、発声によるコミュニケーションは納得・得心など私達現代の人類にも共感・同情ベースはしっかり引き継がれています。

人工環境・・・私達の不安や悩みの源泉

約1万年前に農耕が発明されて以来、人類自身が技術、制度など人工環境を次々とつくり出し、今や私達はその人工環境に囲まれて生活し、人工環境なしの生活はあり得ない状況です。

人工環境は便利ですが、適応できないときには、心身に悪影響をもたらすことが分かっています。人工環境は化学物質、住宅、通信、食料、あるいは会社、法制度、経済など枚挙にいとまがありません。今あるものや、ことがらであって、農耕が発明される以前になかったと考えられるものは、すべて人工環境と見做して良いのかも知れません。たとえば、国家です。国家という人工環境は戦争という、とんでもない災難を持ち込んでくることがあります。

私達の不安、疑問、悩み、あるいは争いごとの多くは人工環境由来のものではないかと思われます。

対人工環境戦略と家族

私達生きものにとっては、人工環境が大事ではなく、あくまで私達自身の“生きる、生きていく”が大事です。

うまく付き合うことが基本

人工環境をすべて切り捨てるという選択は、現実にはあり得ないと思われますので、祖先が自然環境下で長い時間をかけて獲得してきた人類の特徴を活かして向き合う、 “うまくつき合う”を基本とすることが大事です。

大事な視点:毎日の朝がベストコンディションかどうか

たとえば、働き手の父親が毎日帰りが遅く、不規則で、本人も“寝るために家に帰る”“稼いでいるのだから文句言うな”程度の意識で、家族間のケンカが絶えないというケースを想定します。この父親が継続的に毎日ベストコンディションで職場に向かっているかははなはだ疑わしく、しかも他の家族の生活リズムは乱され、スッキリせず不調のまま仕事場や学校に向かうということになっているのではないでしょうか?

心身がスッキリした朝は、ベストコンディションの一日が始まる合図に違いありません。人工環境との“つきあい”が良い、悪いは、心も体もスッキリした朝を継続して毎日迎えることが出来るかどうかということが判定基準と考えられます。スッキリした朝を迎えるためには、心身両面について質の高いメンテナンスが必要で、それは日々の豊かな家族間相互作用によってこそ得られますので、家族生活がとても大事ということができます。

集団の協力を得ながら、家族間相互作用を豊かにする

さきほどのケースでは、父親は会社と折り合っているつもりになっていますが、取り込まれてしまって、会社という人工環境に振り回されてしまっているとみることが出来ます。一人ひとり単独で人工環境と相対し、折り合っていくのはむずかしそうです。

生きものには、難敵に対しては単独生活ではなく、集団生活することで対応してきたという進化の経験があります。この意味で、一人単独ではなく、集団の協力を得ながら、家族間相互作用を豊かにすることで家族とともに対応を進めていくということが現実的と思われます。

家族に合った家族間相互作用を!

私達を取り巻く人工環境は個々に異なります、私達の事情も個々に異なりますので、いろいろな選択があって当然です。生き方は人の数だけ、人それぞれです。他の人(集団)の体験談などを参考にしながら、家族間相互作用を豊かにするという目標を家族のなかで共有し、たとえば週何日かは家族揃って共食・共寝・共起床、談笑するようにすることを決め、実行するなど、家族が理解し力を合わせて対応することが、人工環境と“うまくつき合う”につながると考えられます。

 

私たちの生活戦略の核(コア)

・人類の特徴(人類の戦略)を知り、
・集団から協力を得ながら、
・家族間相互作用を深める
・評価基準:家庭での毎日のメンテナンスを充実させ、毎朝スッキリした状態で家庭生活や社会生活に臨めるかどうか

ファミリー・ルネッサンスに込めた思い

人の数だけの人生・生き方がある、
最も重要なことは明日へ命を継続することと次世代へバトンをリレーすること、
人類の特徴を知り、人間集団の協力を得ながら、
豊かな家族間相互作用により、一人ひとりがイキイキして実在感のある命の営みを得ることを
ファミリー・ルネッサンスは提案します。

テーマ:人工環境からの自由

適応することがむずかしい、厄介な人工環境に対し、人類の特徴を活用し、人間集団の協力を得、家族間相互作用を深めることにより個別的に、かつ漸進的に解決策をつくり上げる。
これらのことを一つひとつ広め、最終的に人工環境問題からの自由を得る。

明日へ、次の世代へ命の連鎖を

私達は、生きものです。命は、明日に向いています。
明日への、次の世代への命の連鎖に向かって家族を継続して日々営むという考え方で、一人ひとり、家族、集団を大事にする。

共感と同情(非言語コミュニケーション)の重視

インターネットの普及は情報空間を創出し、そこでは非言語コミュニケーションは存在せず専ら言語コミュニケーションのみとなっています。人類にとっては適応が進んでいない環境だといえますので、この意味では人工環境であり、うまくお付き合いするしかないのではないでしょうか?たとえば、情報空間におけるコミュニケーションとリアル空間のそれを使い分け、最終的には共感と同情による非言語的なコミュニケーションで納得、得心のレベルで意思決定するという手順が考えられます。

生活のコストパフォーマンス向上のために、だれでもファミリー・バンクを

家族が人間集団の協力を得るという事例として、欧米にファミリー・オフィス(参考:http://www.ffoglobal.com/aboutff.html)というサービスがあります。ビル・ゲイツなど金融資産を莫大に持つ超お金持ち家族に対して、資産管理を中心に家族の教育や医療など生活の色々な場面で助言する銀行などが提供するサービスです。実際に役に立つさまざまな情報を提供することにより、超お金持ちにより多くの選択肢を提供することが目的のようです。そのミソは理論ばかりでなく経験・体験に基づく役に立つ情報収集機能ではないかと推定しています。
紙ベースの時代であれば情報収集には大きな壁がありましたが、ネットの時代ではその壁は相当に低くなっているのではないかと考えています。
ファミリー・ルネッサンスは、インターネットを活用し、皆様の参加を得て、理論や経験に基づく情報収集・蓄積機能、サービス機能(ファミリー・バンク)の実現を目指します。
家族の生活のコストパフォーマンスを上げて、家族誰もが生活の選択肢を増やし、一人ひとりが、日々ベストコンディションであることを手伝う役割がファミリー・バンクではないかと考えています。

ファミリールネッサンスがご自身とご家族を見つめ直す契機になり、一つでも笑顔がふえることにつながれば幸いです

謝辞

ファミリー・ルネッサンスは、本サイト管理責任者である末吉が、自身のライフワーク・テーマ「家族」と故瀬川昌也氏の「脳神経系の発達」との融合を試み、まとめたものです。まとめるに当たって「家族」と「脳神経系の発達」「脳神経系の発達」の間を埋めるために「人類進化論」(山極寿一著、裳華房出版)を勉強させて戴きました。これら「家族」「脳神経系の発達」「人類進化論」の3つを「人類の特徴」という軸で串刺しにして、人間一人ひとりの「生きる」の基盤的戦略としてスとしてまとめ、さらに生活のコストパフォーマンス向上のために集団の活用をその応用(アプリケーション)として加えた次第です。

故瀬川昌也氏
医師・研究者、小児神経学のパイオニアの一人、瀬川小児神経学クリニック院長、2014年12月逝去(同氏の主張)
人の素質づくり(子どもの発達)の基本
「生直後から小学校低学年までは睡眠・覚醒リズムの獲得、ハイハイ・直立二足歩行を目一杯させる、五感をフルに作動させる。知識の詰め込みは不要(そのための脳神経系が構築途上だから意味がない)。」
睡眠・覚醒リズム
睡眠・覚醒リズムの2相性、24時間リズムは人間にしかない特徴であり、この特徴獲得は子どもの発達には欠かせない。
ハイハイ、四肢協調直立二足歩行
ハイハイ、四肢協調直立二足歩行(ロコモーション)は、人間にしか行うことが出来ない特徴であり、上位の脳神経系を育てる役割があることから、この特徴獲得は子どもの発達には欠かせない。小学校低学年までは、ロコーションを目一杯行うことが健全な脳神経系の獲得に必要。
豊満環境下に子どもを置く(環境との相互刺激作用)
子どもを豊満環境下に置き、多様で豊かな環境刺激を直接与え五感を目一杯働かせ、子どもが反応、環境からさらに反応する刺激の相互作用が必要。感覚・運動統合機能など上位の脳機能の発達に欠かせない。環境として父親を含め大人の参加が重要。

本サイト管理責任者末吉のライフワーク・テーマ「家族」

背景と問題意識:会社勤め約30年、医療・介護・福祉の調査研究に従事。
「入院病棟において年に何度も見舞いに来ない子どもであっても見舞いに来れば老人が見せる笑顔はすばらしく、ベッドサイドで毎日懸命にケアをしている医師・看護師に見せる笑顔とはくらべものにならない。」を多くの医療施設で見聞。
認知機能が低下した老人にもしっかり記憶されている家族、「家族」には一人ひとりにとって何か不思議な力があるのではないか、という問題意識が芽生える。
経緯:会社を辞めるのを機に、勝手にライフワーク・テーマ「家族」を決める。10年余前。
2011年から瀬川小児神経学クリニックの仕事をお手伝いし、実りはしませんでしたが故瀬川昌也氏と共に国に研究提案するなど、「家族」と「脳神経系の発達」の融合に取り組みました。
しかし、故瀬川昌也氏の小児神経学の研究成果を一般の方に説明するのはなかなかむずかしく、納得性の高い説明シナリオが見つからない状況でした。たまたま山極寿一氏の著書「人類進化論」(裳華房)に出会い、「人類の特徴」という観点から瀬川昌也氏の主張「人の素質づくり」を説明するシナリオを考えつき、ファミリー・ルネッサンスに至った次第です。

故瀬川昌也氏のメッセージが少しでも広く皆様に伝えられれば、40年間余に亘り同氏から戴いたご厚誼に少しでも恩返しになるのではないかと思っています。故瀬川昌也氏に感謝の気持ちを込めて合掌したいと思います。
本サイトのオープンには多くの方々のご協力をいただきました。とくに若いお2人、佐藤浩基さん(㈱日本ケアコミュニケーションズ)、高橋修司さん(有限会社ケイズプランニング)の心からのご協力にお礼を申し上げたいと思います。私事ですが、妻と子供たちには、「ライフワーク」と叫び続け生活を顧ない夫・父(私)に何も言わず支えてくれたこと、家族(相互作用)の大切さを教えてくれたことに感謝するばかりです。
皆様のご協力がなければここまでたどり着くことはできなかっただろうと思います。皆様に深く感謝しつつ、ファミリー・ルネッサンスがブラッシュアップされ、広く受け入れられるよう今後ともご指導・ご助言をお願いしたいと思います。
また、お会いしたことはありませんが、山極寿一氏にもお礼を申し上げたいと思っています。

末吉 一成記(2015年12月)