集団生活から家族生活へ
熱帯雨林樹上生活
人類の祖先、霊長類の祖先が6500万年前に熱帯雨林の樹上生活を始めたときは、リスのようで夜行性の動物でした。熱帯雨林が消失するまで約4000万年間樹上で暮らし進化を遂げたのですが、そのときに発達させ獲得した特徴の一つが集団生活です ※2-2-18。樹上の捕食者である猛禽類などから身を守るために、見張り役を置き、あるいは誰かが先に捕食者を発見したら特殊な鳴き声で仲間に知らせ、逃げる、身を隠す、あるいは共同で立ち向かう、と集団で対応していたようです。
地上での生活と捕食リスク
人類の祖先が樹上からサバンナに進出した時は、まわりはライオンなどの肉食の猛獣、捕食者ばかりですからひとりで対応するより、集団の誰かが早く見つける、あるいは早く感じる(臭い、音など)、早く警報を出すことにより安全を図っていたようです。捕食リスクの高い環境下での生活は子どもの死亡率が高かく、人類が多産となった理由挙げられています。また、男が育児に参加するようになった理由の一つは、捕食者から子どもを守るためとされています。また、集まって寝るところは捕食者が寄り付きにくい断崖に作られた ※2-2-19のですが、化石に残された証拠からそれでも全滅させられたと推定される例もあり、私達の祖先は生き抜くことが困難な環境に晒されていたのです。
家族生活の萌芽 ※2-2-20
もともと人類は同性どうしが協力する社会だったようです。男は男、女は女、の社会で、子どもは母親は認知するが父親は認知されない(別生活ですので認知のしようがない)状況だったようです。サバンナに進出後、男が育児に参加するようになってから子どもが男を認知するようになり、かつ捕食者のリスクから子どもを守ってくれることから母親は父親と認知するようになった。これが、家族の始まりのはじまりです。男が子育てに参加するということが家族の萌芽を作ったということになります。人類は、集団生活を維持しつつ、集団生活の中で家族生活を始めたということになります。捕食者危険情報や木の実などの食料情報について情報の非対称性をつくり、解消していく集団生活と子育てを行う家族生活が併存するはじまりだったと思われます。
家族のはじまり…安全と睡眠と脳機能
200万年前に人類の祖先は、キャンプを作り始めます。集団で寝る、安全な睡眠をする、食事する、繁殖するようになりました※2-2-9。その後、次の人類の種※2-2-21がホームベースをつくり、屋根と壁がある今の家や家族につながります。なお、家族がいつ形成されたかについては学説は定まっていないようです。いずれにしても、キャンプやホームベースにより睡眠中の安全がより高まり、睡眠が高度化が進み、それにつれて脳機能の高度化も進んで行ったと考えられるのではないかと思われます。
定住後も集団生活と家族生活
人類が、狩猟採集を行っていた頃は、食料を食べては、次の食料を求めて移動をする、ということを繰り返す生活でした。住居を移動せず、定住するのは、約1万年前に農耕を発明して十分な量の食料が得られ移動する必要がなくなってからです。しかし人類は集団生活と家族生活を止めなかったのです。
集団規模の拡大と生活
集団の規模については、初期の人類は共感・共鳴をベースに感情移入が容易にできるという観点から10人~15人くらいであったろう※2-2-22とされていますが、現代では都市でみれば何万人、大都市でいえば何百万人拡大しています。
現代においても、安全、子育て、生活のコストパフォーマンス向上のために、家庭生活が必要であり、共感、共鳴ベースの集団との関係も必要と考えています。
安全については、祖先の時代と同じく、一人で対応するより集団や家族で対応することの方が効率的であるという理由で、集団生活、家庭生活は必要であると考えられます。
子育てに関しては、脳の発達に深く関連がありそうです。生後4か月くらいから脳は多種感覚運動統合という発達プロセスに入り、そこでは子どもの両親ばかりでなく多くの大人の参加が必要とされています ※2-2-23。この意味で、家族を中心とし集団は必要と考えられます。
生活のコストパフォーマンス、たとえば衣食住の確保のために無制限のコストは負担することはできませんので、集団からの情報収集や共感、共鳴ベースの人間関係に基づく交渉がコストパフォーマンスを向上には欠かせません。
集団生活や他人とのつきあいは、集団の規模が飛躍的に拡大した現代でも必要性は変わらないのではないでしょうか?
2-2-18 山極寿一「人類進化論」裳華房 2010年3月 36~44
2-2-19 山極寿一「人類進化論」裳華房 2010年3月 158
2-2-20 この項全体 山極寿一「家族進化論」東京大学出版会 2012年6月 256、258
2-2-21 山極寿一「人類進化論」裳華房 2010年3月 157
2-2-22 山極寿一「家族進化論」東京大学出版会 2012年6月 278
2-2-23 瀬川昌也「睡眠と脳の発達」保健の科学 第51巻 第1号 9